2016.05.03
輪切りで見える!パノラマ世界史1~5
出版社:大月書店 / 発行年:2016 /
この度、大月書店より、『輪切りで見える!パノラマ世界史』 5巻セットが刊行されました。
監修者の羽田正教授、大月書店の岩下結さん、各巻の執筆者とイラストレーターの皆さんにお話をうかがいました。
羽田 正:
出版が完了し、本当にホッとしています。率直に言って、「横の世界史」を描くことがこれほど難しいとは思っていませんでした。ある時期の世界を眺めてみたとき、その全体的な特徴をどう説明するか、これは特に前近代の場合、これまであまり意識されていなかった点でした。また、何か特徴が見つかったとして、それを表すのに、どのようなトピックを選ぶのがよいのか、これも難題でした。手本になる前例はありません。このシリーズを実現する過程で、執筆者も私も大いに勉強し、議論しました。それはさながら海図なしで大海原を行く船を操るような体験でした。締め切りが迫る中での突貫作業も、今となってみると、楽しい思い出です。イラストレーターの皆さんの美しく魅力あふれる絵に導かれ、読者が私たちの冒険の物語を楽しんで下さるなら、とてもうれしく思います。
岩下 結:
「世界の歴史を、イラストマップみたいに一枚の絵で見せられたら・・・」そんな思いつきから、羽田先生の『新しい世界史へ』(岩波新書)を読み、そこで提案されている世界史の描き方を、ぜひ子どもの本で形にしましょう!とお願いしたのが2013年。完結まで足掛け3年の壮大な企画になるとは、恥ずかしながら当時は自分でも予想できていませんでした。羽田先生をはじめ執筆者のみなさんもドイツ、イスタンブール、中国など世界を飛び回り、メールやSkypeで必死にそれを追いかける制作過程自体も内容にふさわしいものでした。この本を読んだ子どもたちが、私たちの想像をこえる世界のイメージを描き、その世界へ飛び出していってくれることが楽しみです。
宇野 瑞木(第1巻文):
人類の歴史を輪切りにして絵本にする、という企画を聞いた時の興奮は今でも鮮明に覚えています。ユーラシア科研を通して模索されてきた横の歴史の叙述方法が、絵本という形でなら実現し得ると確信できたからです。しかし、思うのと実際に書くのとでは大きな差があり、これまでいかに既成概念の中でものを考えてきたか、偏った地域だけに関心を寄せてきたか、ということを痛感しました。古代を扱う1巻では特に情報の地域格差が著しく、情報がない=歴史がない、では決してないと再認識しました。そうした情報の格差を超えて各社会をある程度並列できたのは、少ない情報からでも人びとの生活を見事に表現してくれたイラストの力も大きかったと感じています。
おちあいけいこ(第1巻、第4巻絵):
長年、イラストの仕事をしてきましたが、今回の「パノラマ世界史」の仕事で改めて視覚化の面白さを実感しました。ひとつの国に起きたことが、様々な国に影響していく様や、めまぐるしく変貌していく地域と変化の速度のゆるやかな国など、一枚の世界地図の絵にしてみて初めて発見出来ることでした。それぞれの時代にヒーローや悪者がいたり、ノアの箱船ではないですが、人類は地球という星にのりあわせ、影響し合い助け合い戦いながら歩んできたということが、5巻の本で一大絵巻として納得出来ました。世界史を俯瞰でとらえる人類の歩みを、是非子供達にも体感してもらいたいと思います。きっと民族の違いをこえた「人」としての歩みを感じてもらえると思います。
内田 力(第2巻文):
この世界史絵本のシリーズは、世界を時代ごとに“輪切り”にして、世界地図をつかって当時の様子を説明しています。そのため、世界全体を見渡して、特定の地域の記述に偏らないように気をつけました。たとえば高校世界史の教科書の記述と見比べてみてください。まだ不十分なところもありますが、地域バランスの歪みをかなり改善できたと思います。2巻でとくに意識したのは、“歴史の主役は人間だけじゃない!”ということです。2巻には環境・動物・植物の話題をたくさん盛り込みました。2巻の時代は、気候変動が世界の人びとのくらしを左右したことがよくわかる時代ですし、各地の生活では動物や植物との関わりが重要でした。環境の温暖化・寒冷化、馬、ラクダ、リャマ、アルパカ、ネズミ、トウモロコシ、茶、稲、・・・。おなじような意図から、コラム「ネコの歴史」では、世界各地のネコと人間の交流について説明しています。イラストレーターの伊野孝行さんの描かれる表情豊かな人間が、地球のうえでたくさんの動植物とともに生きている様子を想像しながら、2巻を読んでいただけたらうれしいです。
伊野 孝行(第2巻絵):
点数が多い仕事は途中で飽きてくるものですが、この仕事は不思議と飽きませんでした。特に情景ページの場面を描くのはとても楽しい仕事でした。地域によって異なる景色や暮らしを頭の中に思い浮かべて描くと、自然に一枚ごとに違う絵になりました。今はもう存在しない人々の日常や社会を想像することは、歴史を学ぶ上でもっとも楽しいことではないでしょうか。歴史には残酷な出来事もありました。それを想像するのは楽しいことではありませんが、人間の存在そのものを考えさせてくれるきっかけになります。私の描いた絵が読者の皆様の想像を刺激するようなことがあったら、こんなに嬉しいことはりません。
佐治 奈通子(第3巻文):
これまで学んできた世界史は、政治や商業に携わっている人や位の高い人など、一部の人々の間で起こった出来事を多く取り上げているのだなと改めて感じました。このシリーズでは「人々のくらし」というページを各時代に設けることで、庶民の間で流行したことや重要だったこと、変化したことを取り上げた点が、非常に面白いと思います。そのかわり、世界史の教科書で取り上げられているけれども、実際には一部の人々や地域でのみ重要であった出来事は思い切ってカットしたり、それらの出来事が庶民に影響を及ぼすには時間差があったことなどを意識して、よりバランスのとれた記述を心がけました。
竹永 絵里(第3巻絵):
子どもが楽しく世界史を学べることを一番に意識して、かわいらしく、わかりやすいイラストレーションを心がけました。時には深刻な場面を描くこともあり、そういった内容でも子どもたちがとっつきやすいよう、画材は色鉛筆とクレヨンを使用し、優しい印象を与えられるようにしました。 私自身、民族衣装を調べて描くことをライフワークとしており、今回のパノラマ世界史でも衣装を描く場面がでてきたので、衣装にも注目していた だけたら嬉しいです。知らなかった歴史上の人物や事項がたくさんあり、私も絵を描きながら勉強させていただきました。子どもたちに楽しく世界史を学んでもらえたら嬉しいです。
後藤 絵美(第4巻文):
19世紀から20世紀初頭を扱った4巻では、現代の私たちがあたりまえと思っている「社会のしくみ」や「人びとのくらし」が、実は、この時期に少しずつ形づくられていったことを表現しました。国民国家という考え方、強国が世界を支配しようとする帝国主義、電灯や電話、自動車、そして、商品や情報、争いや病気をも運ぶ世界的なネットワーク。こうしたものがどのように生まれて、どのように広がっていったのかを考えながら読んでほしい一冊です。そうして、現代世界の成り立ちという壮大な図に思いを馳せながら、一枚一枚の絵をじっくりとご覧ください。人間だけでなく動物たちもそこにいたことがわかります。
鵜飼 敦子(第4巻文):
私の専門分野でもある19世紀末は、現在、私たちが当たり前のように使っているものや考え方が形づくられた時代でした。社会のしくみから、人びとが地域や民族ごとにまとまって「革命」を起こしたり、「国」という単位が意識されるようになって、富を求めて争いが活発になってゆくことが分かります。また、情報網や交通網の発達により、新しい技術やものが生まれてきたことが人びとのくらしから見えてきます。4巻では、この大きく動き出す時代の転換期の前後に、世界中のあちらこちらで同じような動きがあったことをとらえることができるでしょう。
寺田 悠紀(第5巻文):
子どものころ、自分と同じぐらいの年齢の子どもたちが遠くの国でどのような暮らしをしているのかとても興味がありました。執筆にあたり、今この瞬間も戦下に暮らす人々がいることや、世界にはさまざまな思想や価値観があることが、子どもたちにも理解してもらえるよう工夫しました。1940年代以降の歴史を扱った5巻には、私たちが実際に体験した時代が含まれます。近年では世界各地のニュースを瞬時に知ることができますが、輪切りにして歴史を見ることで、さまざまな出来事が関連しながら世界が動いている様子がよりわかりやすく読み取れると思います。5巻には読者の皆さんがよく知っている政治家や有名人もたくさん登場します。執筆者とイラストレーターで、一枚一枚の絵と説明文を構成するのは、とても面白い作業でした。できるだけ多くの事を描いてみてもそれは膨大な世界の歴史の一部にすぎません。説明文やイラストが、歴史をさらに深く調べてみるきっかけになればと思います。
ヒロミチイト(第5巻絵):
世界史と日本史をリンクさせ、足元をイメージしながら世界全体を学ぶという発想、とてもユニークなアイディアだと思います。この方法なら、世界の端っこに居ても、当時の世界全体の空気感をくみ取れる気がします。この本を、世界史ではなく、人間史と呼びたいです。世界の流れに対して、その時代の人間がどのように感じ、考え、行動してきたのか、人類の動きが明確に分かるからです。今回は5巻が最終巻となりますが、この歴史という事実を踏まえ、このまま進むと、未来はどのように変わって行くのだろうか?そんな想像を読者の皆さんの第六感を使い、頭の中でそれぞれの第六巻が創刊出来ると面白いですね。素晴らしい事も、酷い事も沢山ありますが、歴史は人間の財産だと思います。その財産をどう使っていくのか、未来は僕たち人間の手に委ねられていますね。